3つの売り方の比較
| 項目 | 仲介で売る | 買取で売る | そのまま持つ |
|---|---|---|---|
| 現金になるまで | 目安は3〜6か月です。買い手が見つかるまで進みません。 | 目安は数日〜1か月です。査定額に納得すれば契約に進みます。 | — |
| 手元に残る額 | 市場価格に近い金額です。仲介手数料が引かれます。 | 市場価格より低くなります。仲介手数料はかかりません。 | 固定資産税と管理費が毎年かかります。 |
| 向いている場合 | 駅に近い、建物がまだ使えるなど、買い手が見込める家 | 早く手放したい場合。傷みや家財があり、そのままでは売りにくい家 | 子どもが使う予定があるなど、手放さない理由がある場合 |
| 気をつけること | 売れ残ると値下げが続きます。引き渡し後の不具合に責任を負う場合があります。 | 提示額は業者で差が出ます。2社以上で比べてください。 | 管理が行き届かないと、特定空家等に指定される場合があります。 |
仲介手数料の上限
売買価格が400万円を超える場合、仲介手数料の上限は「売買価格の3%+6万円」に消費税を加えた額です。 800万円以下の物件は、税込33万円まで受け取れる決まりがあります(2024年7月から)。 根拠は宅地建物取引業法46条と、国土交通省の告示です。
特定空家等または管理不全空家等に指定されて勧告を受けると、住宅用地の特例が外れます。 土地の固定資産税が上がるため、持ち続ける場合にも費用がかかります。
「相続した実家が、隣とつながった長屋だった。自分の家だけ売れるのか」長屋や連棟式の家を相続し、売り方と解体の進め方を知りたい人に向けて書いています。
結論
長屋・連棟式の家も、自分の住戸だけを売れます。隣の所有者の同意が要るのは、切り離して解体する場合と建て替える場合です。大阪府は、ほかの所有者の承諾なしに一部だけの解体や切り離しはできないと案内しています。無断で切り離して建て替えた所有者に、建物の撤去と561万円余りの賠償を命じた判決があります(東京地方裁判所 平成25年8月22日)。
この記事で分かること
- 切り離しと建て替えに、隣の所有者の同意が要る理由
- 隣に売る、全戸をまとめて売る、そのまま買取に出すの3つの違い
- 長屋を解体補助の対象にしている市と、税の特例の注意点
こんな場合は診断へ
- 長屋の一戸を相続したが、隣には今も人が住んでいる
- 不動産会社から「長屋は扱いにくい」と言われた
- 解体したいが、隣とつながっていて進め方が分からない
一つでも当てはまる場合は、空き家の診断で解体費と買取価格の目安を出せます。診断は一戸建てを前提にした計算です。長屋の場合は、土地の値段と解体費の目安として見てください。
長屋・連棟式の家とは
総務省の住宅・土地統計調査は、長屋建を次のように定義しています。二つ以上の住宅を一棟に建て連ねたもので、各住宅が壁を共通にし、それぞれ別々に外部への出入口を持つ建物です。テラスハウスと呼ばれる住宅も、ここに含まれます。
大阪市の建築基準法の取扱いも、ほぼ同じ内容です。二つ以上の住戸があり、隣り合う住戸が壁や床を共有し、廊下や階段などの共用部分を持たない建物を長屋としています。
令和5年の調査から、長屋の数を拾います(2023年10月1日現在)。
| 項目 | 戸数 | 割合 |
|---|---|---|
| 人が住んでいる長屋建の住宅 | 126万5千戸 | 住宅の2.3% |
| 長屋建の空き家 | 41万9千戸 | 空き家の4.7% |
| うち賃貸用・売却用・別荘などを除く空き家 | 13万7千戸 | - |
長屋が住宅に占める割合は2.3%です。空き家に占める割合は4.7%で、約2倍です。
長屋の実家を相続したら、最初に登記を確かめます。法務局で、建物と土地の登記事項証明書を取ります。見るのは次の2点です。
- 建物が住戸ごとに登記されているか、一棟で登記されているか
- 土地が住戸ごとに分かれて単独の名義になっているか、共有になっているか
用語
分有 それぞれの住戸の所有者が、自分の住戸の下の土地を単独で所有している状態です(八尾市の報告書)。
切り離しに隣の同意が要る理由
自分の住戸を売ることは、単独でできます。建物の各部分は、それぞれ所有権の目的にできます(区分所有法1条)。
切り離して解体する場合は、話が変わります。長屋は、基礎、屋根、外壁、柱、梁が一棟でつながっています。八尾市が令和3年1月にまとめた報告書は、長屋には通常、区分所有法が適用されると説明しています。執筆は大阪弁護士会の弁護士です。
区分所有法では、共用部分は区分所有者の全員の共有です(11条)。つながった柱や壁を壊すことは、自分の物だけを壊す行為になりません。
どこまでの同意が要るかは、公的な資料の間で書き方が分かれています。
| 資料 | 書かれている内容 |
|---|---|
| 大阪府 建築安全課の資料 | ほかの区分所有者等の承諾なしに、一部だけの解体や切り離しはできない |
| 八尾市の報告書(令和3年1月) | 一室の切離しは共用部分の一部の除却に当たり、区分所有者全員の賛成が必要 |
| 不動産適正取引推進機構の判例解説 | 一部の所有者が分離や建替えをするには、区分所有法62条の建替え決議が必要 |
建替え決議は、区分所有者と議決権の各5分の4以上の多数で決めます(区分所有法62条)。資料によって必要な同意の範囲が違うため、棟の所有者全員から書面で同意を取る前提で進めます。判断に迷う場合は、弁護士に確かめてください。
無断で切り離した場合の裁判例
東京地方裁判所の平成25年8月22日の判決は、無断の切り離しを扱っています(不動産適正取引推進機構 RETIO 109号)。
- 建物は、昭和53年に建てられた鉄骨造3階建て、12戸の連棟式
- 敷地は住戸ごとに分筆され、それぞれの単独所有だった
- 所有者の一人が自分の住戸を切り離して解体し、自分の土地に4階建てを新築した
- 残った建物に、雨漏りや壁の亀裂が生じた
- 残った建物は、高度地区の制限に抵触する状態になった
裁判所は、新しく建てた建物の収去を認めました。根拠は区分所有法6条と57条です。屋上の防水工事費用などを含め、561万円余りの賠償も認めました。
土地を単独で所有していても、建物は自由に切り離せません。区分所有者は、建物の保存に有害な行為や、共同の利益に反する行為をしてはならないと定められています(区分所有法6条)。
注意
大阪府は、一部だけを解体する工事について注意を促しています。建物のバランスを崩すことになり、倒壊や雨漏りの原因になる可能性があるという内容です。隣の住戸に被害が出ると、切り離した側が賠償を求められる場合があります。
2026年4月に変わった決議の決まり
区分所有法は改正され、令和8年4月1日に施行されました(令和7年法律第47号)。法務省の資料から、長屋に関係しそうな点を拾います。
| 項目 | 改正後の内容 |
|---|---|
| 共用部分の変更 | 原則は4分の3。一定の事由がある場合は3分の2 |
| 建替え決議 | 原則は5分の4。一定の客観的な事由がある場合は4分の3 |
| 決議の数え方 | 建替えなどを除き、出席者の多数決による |
| 所在が分からない所有者 | 裁判所が認定すれば、決議の母数から除ける |
| 新しい決議 | 建物と敷地の一括売却、取壊し後の敷地売却、取壊し |
法務省の資料は、マンションを例に説明しています。長屋への当てはめは書かれていません。隣の所有者と連絡が取れない場合は、この制度を使えるかどうかを弁護士に相談してください。相続人同士で連絡が取れない場合は相続人の一人と連絡が取れないとき、実家は売れますかに書いています。
単独で建て替えできない場合
長屋の一戸を買っても、買主が自由に建て替えられるとは限りません。理由は3つあります。
- 建物の決まり。建替えには、ほかの所有者との合意か決議が要ります
- 敷地の決まり。建物の敷地は、原則として幅4m以上の道路に2m以上接していなければなりません(建築基準法、国土交通省)
- 残る建物への影響。切り離したあとの建物が、高さなどの制限に合わなくなる場合があります
切り離したあとは、自分の敷地だけでこの条件を満たす必要があります。敷地が道路に2m以上接していなければ、新しい家を建てられません。接道の決まりは再建築不可の空き家は売れますかに書いています。
解体工事には届出も要ります。床面積の合計が80㎡以上の建物の解体は、着手の7日前までに都道府県知事へ届け出ます(建設リサイクル法、国土交通省)。
3つの売り方の比較
長屋の売り方は3つあります。
| 比べる点 | 隣の所有者に売る | 全戸をまとめて売る | そのまま買取に出す |
|---|---|---|---|
| 買う人 | 隣の住戸の所有者 | 不動産会社、個人 | 買取業者 |
| 必要な合意 | 隣の所有者との売買の合意 | 全戸の所有者の合意 | 自分だけで決められる |
| 買主が得るもの | 2戸分の建物と土地 | 一棟の建物と敷地の全部 | 1戸分の建物と土地 |
| 向いている場合 | 隣に所有者が住んでいる | 全戸が空き家になっている | 隣と話ができない |
最初に声をかける相手は、隣の所有者です。隣の所有者は、買い足すことで住まいを広げられます。棟の全部を一人が持てば、解体も建替えも単独で決められます。話の進め方は隣の人に土地を売るときの進め方と価格にまとめています。
全戸をまとめて売ると、買主は一棟と敷地の全部を手に入れます。買主は、ほかの所有者の同意を取らずに解体や建替えを決められます。代金の分け方は、契約の前に所有者の間で書面にします。
隣と話ができない場合は、自分の住戸だけを買取業者に売ります。査定を頼むときは、長屋の取引の経験があるかを聞いてください。仲介と買取の違いは空き家は仲介と買取、どちらで売るべきですかに書いています。
安い値段で売る場合は、税の特例を確かめます。都市計画区域内の低未利用土地等を500万円以下で売ると、譲渡所得から100万円を引ける特例があります(国税庁 No.3226)。市街化区域などでは800万円以下が対象です。売った年の1月1日で所有期間が5年を超えることなどが条件で、令和10年12月31日までの売却が対象です。使えるかどうかは、税務署に確かめてください。
住宅ローンが付きにくい理由
買主が住宅ローンを使えないと、買える人が減ります。長屋が売りにくい理由の一つです。
フラット35の中古住宅の基準を見ます(住宅金融支援機構、2026年10月1日更新)。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 建て方 | 木造の住宅は、一戸建てか連続建て |
| 接道 | 原則として、一般の交通の用に供する道に2m以上接する |
| 床面積 | 一戸建て、連続建て、重ね建ては50㎡以上 |
| 耐震 | 建築確認日が昭和56年5月31日以前の住宅は、耐震評価基準などに適合 |
連続建ては、基準で認められた建て方です。長屋という理由だけでは、対象外になりません。古い長屋では、接道、床面積、耐震の基準を満たすかどうかを確かめます。
民間の金融機関の審査の基準は、公表されていません。国土交通省のモデル事業に参加した事業者の資料には、次の記述があります。金融機関は、道路に接していないなどの再建築不可の物件の担保価値を、低く見積もるのが一般的だという内容です。単独で建て替えられない長屋も、同じ見方をされる場合があります。
相続空き家の3,000万円控除と長屋
相続した空き家を売ると、譲渡所得から最高3,000万円を引ける特例があります。長屋は、登記の形によって対象から外れます。
国税庁は、対象になる家屋の条件を3つ挙げています(No.3306、令和8年4月1日現在)。
- 昭和56年5月31日以前に建築されたこと
- 区分所有建物登記がされている建物でないこと
- 相続の開始の直前に、被相続人以外に居住していた人がいなかったこと
住戸ごとに区分所有建物として登記されている長屋は、2つ目の条件を満たしません。登記事項証明書を持って、税務署か税理士に確かめてください。特例の全体は空き家の3,000万円特別控除は、どんな家なら使えますかに書いています。
長屋を解体する場合の補助金
長屋の解体に補助金を出すかどうかは、市によって違います。このサイトに載せている101市区の条件を見ると、長屋に触れているのは22市区です(2026年10月時点)。20市区は長屋を対象に含め、2市は対象外としています。受付を終えた市も数に入れています。
| 市 | 長屋の扱い | 上限 |
|---|---|---|
| 茨木市 | 長屋は一棟すべてを取り壊す工事が対象 | 40万円 |
| 堺市 | 住宅1棟の全部を解体する工事が対象 | 長屋は1棟120万円 |
| 八尾市 | 一棟すべてを取り壊す工事が対象 | 区分所有の長屋は1戸40万円 |
| 函館市 | 全住戸が使われていない長屋が対象 | 30万円 |
| 尼崎市 | 借地の上にある長屋の空き家が対象 | 切離しを伴う長屋は1戸70万円 |
| 浜松市、日立市 | 長屋は対象外 | - |
茨木市、堺市、八尾市は、一棟の全部を解体することを条件にしています。自分の住戸だけを壊す工事は、対象になりません。茨木市は、所有者が複数いる場合に同意を求めています。高槻市も長屋を対象に含め、住宅の全部を取り壊す工事を条件にしています。尼崎市は、切離しを伴う長屋に別の上限を設けている例です。
茨木市、堺市、八尾市の補助は、古い木造住宅の耐震の制度です。耐震診断の結果などの条件があります。条件と申請の順番は、市ごとのページに載せています。
ほかの市は全国の空き家解体補助金一覧で探せます。
まずやること
- 法務局で建物と土地の登記事項証明書を取り、登記の形と名義を確かめる
- 隣の住戸の登記事項証明書も取り、所有者を確かめる
- 隣の所有者に、売る考えがあることを伝え、買う意思や一緒に売る意思を聞く
- 長屋の取引の経験がある不動産会社と買取業者に、査定を頼む
- 解体する場合は、棟の所有者全員の同意を書面で取り、市の補助金を調べる
- 3,000万円控除を使いたい場合は、登記事項証明書を持って税務署に確かめる
まとめ
- 長屋・連棟式の家も、自分の住戸だけを売れる。切り離しと建て替えには、ほかの所有者の同意が要る
- 無断で切り離して建て替えた所有者に、建物の撤去と561万円余りの賠償を命じた判決がある
- 売り方は、隣に売る、全戸をまとめて売る、そのまま買取に出すの3つ。最初に隣の所有者に声をかける
- 区分所有建物として登記された長屋は、相続空き家の3,000万円控除の対象にならない
- 解体補助は、一棟すべての解体を条件にする市が多い。尼崎市は切離しを伴う長屋に1戸70万円の上限を設けている
よくある質問
- Q. 長屋の自分の家だけを解体できますか
- ほかの所有者の同意なしにはできません。大阪府は、ほかの区分所有者等の承諾なしに一部だけの解体や切り離しはできないと案内しています。八尾市の報告書は、区分所有者全員の賛成が必要と説明しています。棟の所有者全員から、書面で同意を取ってください。
- Q. 隣の所有者が分からない場合はどうすればよいですか
- 法務局で隣の住戸の登記事項証明書を取ると、登記上の所有者が分かります。令和8年4月1日に施行された改正区分所有法には、裁判所が認定した所在不明の区分所有者を決議の母数から除く制度があります。長屋で使えるかどうかは、弁護士に確かめてください。
- Q. 長屋は住宅ローンが使えませんか
- 長屋という理由だけでは、対象外になりません。フラット35の中古住宅の基準は、木造の住宅を一戸建てか連続建てとしています(2026年10月1日更新)。道に2m以上接すること、床面積50㎡以上、古い住宅は耐震評価基準などへの適合が条件です。民間の金融機関の基準は公表されていません。
- Q. 長屋でも相続空き家の3,000万円控除は使えますか
- 登記の形によります。国税庁は、対象になる家屋の条件に「区分所有建物登記がされている建物でないこと」を挙げています(No.3306、令和8年4月1日現在)。住戸ごとに区分所有建物として登記されている長屋は、この条件を満たしません。登記事項証明書を持って、税務署に確かめてください。
- Q. テラスハウスも長屋と同じ扱いですか
- 総務省の住宅・土地統計調査は、テラスハウスと呼ばれる住宅を長屋建に含めています。壁を共通にして建て連ねた住宅であれば、切り離しや建て替えの問題は同じです。建物と土地の登記を確かめ、ほかの所有者との関係を先に整理します。
査定は2社以上で比べる
買取の提示額は、業者によって差が出ます。複数の金額を見てから決めてください。 市ごとの解体費との比較は、市区町村のページに載せています。
お住まいの市の条件で計算する
建物を残して売った場合の手取りと、解体した場合の自己負担を、市の地価と補助制度から計算します。 所要時間は1分です。名前や連絡先の入力はありません。
お住まいの地域の条件で診断する出典
- 総務省統計局|令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果の概要
- 総務省統計局|平成30年住宅・土地統計調査 用語の解説(長屋建の定義)
- 大阪市|建築基準法取扱い 長屋の解釈
- e-Gov法令検索|建物の区分所有等に関する法律(1条、6条、11条、17条、57条、62条)
- 八尾市|長屋にまつわる諸問題の解説報告書(令和3年1月)
- 大阪府 建築安全課|長屋の維持保全(一部だけの解体や切り離し)
- 不動産適正取引推進機構|RETIO 109号 東京地裁 平成25年8月22日判決(連棟式建物)
- 法務省|老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律について
- 法務省民事局|区分所有法・被災区分所有法の改正について(令和8年4月)
- 国土交通省 住宅局|接道規制について(幅員4m以上の道路に2m以上)
- 国土交通省|建設リサイクル法の届出(床面積の合計80㎡以上、着手の7日前まで)
- 住宅金融支援機構|フラット35 中古住宅の技術基準の概要
- 国土交通省 既存住宅等価値発見モデル事業|再建築不可物件に特化した担保評価手法の構築(事業者の資料)
- 国税庁|No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
- 国税庁|No.3226 低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除
記事の内容は、2026年10月8日時点の各出典にもとづいています。
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この記事の情報について
一般的な情報としてまとめたものです。実際の売却条件や税額は、物件ごとに変わります。 契約の前に、宅地建物取引業者と税理士に確かめてください。