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相続した家の手続き

親が認知症の場合、実家は売れますか

名義が親の家は、親本人しか売る契約ができません。親に意思能力がない状態で結んだ契約は無効です(民法3条の2)。この場合は家庭裁判所に後見開始を申し立て、成年後見人が裁判所の許可を得て売ります(民法859条の3)。申立ての費用は収入印紙800円と登記手数料2,600円で、開始まで多くは4か月以内です。専門職の後見人の報酬は月額2万円が目安です。親に意思能力があるうちなら、家族信託や任意後見で子に売る権限を移せます。手順と費用、税金の条件、売るか持つかの目安を書きます(2026年9月時点)。

更新日
2026年9月30日
青空の下に並ぶ瓦屋根の家々

期限の一覧

期限 手続き
3か月 相続の開始を知った日から 相続放棄 借金のほうが多い場合の手続きです。家財を処分すると、放棄できなくなる場合があります。
10か月 相続の開始を知った日の翌日から 相続税の申告と納付 遺産の総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合だけ必要です。
3年 相続で取得したと知った日から 相続登記の申請 2024年4月1日から義務です。それより前に起きた相続は、2027年3月31日が期限です。
3年目の12月31日 相続が始まった日から 3,000万円の特別控除を使った売却 正確には「相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日」までです。
3年10か月 相続が始まった日から 取得費加算の特例を使った売却 相続税の申告期限の翌日から3年以内です。特別控除とは、どちらか一方を選びます。
2027年12月31日 制度そのものの期限 空き家の特別控除の適用期限 自分の3年の期限より、制度の期限が先に来る場合があります。早いほうが締め切りです。
翌年3月15日 売った年の 譲渡所得の確定申告 控除で税額が0円になる場合も申告が必要です。申告しないと、控除は適用されません。

期限は、物件や相続の事情で変わります。自分の場合の期限は、司法書士か税理士に確かめてください。

「親が認知症になり、施設に入った。空き家になった実家を売って費用にあてたいが、親の名義のままで売れるのか」親が存命のまま、実家の売却で止まっている人に向けて書いています。

結論

実家の名義が親なら、売る契約ができるのは親本人だけです。子が代わりに売ることはできません。親に意思能力がない状態で結んだ契約は無効です(民法3条の2)。この場合は、家庭裁判所で成年後見人を選び、後見人が裁判所の許可を得て売る方法になります(民法859条の3)。親がまだ契約の内容を理解できるうちなら、親自身が売る、または家族信託で子に売る権限を移す方法があります。

この記事で分かること

  • 認知症の親の家を、子が勝手に売れない理由と、無効になる契約
  • 成年後見制度で売るときの手順、費用、期間
  • 家族信託と任意後見の違いと、親が元気なうちにしかできない準備

こんな場合は診断へ

  • 親が施設に入り、実家が空き家になって1年以上たつ
  • 施設の費用や管理費が続き、実家を売って充てたい
  • 兄弟の間で、売るか残すかの意見が分かれている

一つでも当てはまる場合は、空き家の診断で、その市の地価から買取価格の目安を出せます。後見の申立てや信託の準備をする前に、いくらで売れる家かを先に見ておきます。

子が代わりに売ることはできません

不動産の売買契約は、名義人である親が結びます。子が代理で契約するには、親からの委任が必要です。委任状に親が署名しても、親に意思能力がなければ、その委任も無効です。

2020年4月1日に施行された民法3条の2は、意思表示をした時に意思能力を有しなかった法律行為は無効と定めています。認知症の親に署名だけしてもらった売買契約は、あとから無効になるおそれがあります。買主も登記の名義を失う危険があるため、不動産会社は本人の判断能力を確かめてから契約に進みます。

用語

意思能力 自分の行為の結果を判断できる能力です。認知症と診断されただけで直ちに無くなるものではなく、契約の内容ごとに判断されます。不動産の売買は金額が大きく、求められる理解の程度も高くなります。

厚生労働省の研究班の推計では、認知症の高齢者は2022年に443.2万人、2040年には584.2万人になります。軽度認知障害の人は2022年に558.5万人です(2024年5月公表)。親の家を売る場面で、この問題に当たる家庭は珍しくありません。

成年後見制度で売る手順

親に意思能力がない場合の方法が、成年後見制度です。家庭裁判所に後見開始の審判を申し立て、選ばれた成年後見人が親に代わって財産を管理します。申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族などです(民法7条)。

申立ての費用は、収入印紙800円、登記手数料2,600円、連絡用の郵便切手です。医師の鑑定が必要になった場合の鑑定料は、ほとんどの場合10万円以下です(法務省、2026年9月時点)。申立てから後見の開始までは、多くの場合4か月以内です。2024年の統計では、2か月以内に終わった事件が約72.0%でした(最高裁判所)。

後見人が選ばれても、すぐには売れません。親が住んでいた家を売るには、家庭裁判所の許可が別に要ります(民法859条の3)。施設に入って今は住んでいない家でも、施設を出たときに戻る可能性がある家は、居住用として扱われます(大阪家庭裁判所)。

段階 すること 費用の目安
1 後見開始の申立て 家庭裁判所に申立書、診断書などを出す 印紙800円+登記手数料2,600円+切手+鑑定料
2 審判と登記 後見人が選ばれ、法務局に登記される 上記に含む
3 売却の準備 後見人が不動産会社に査定を頼み、売買契約の案を作る 仲介なら仲介手数料
4 居住用不動産処分の許可申立て 契約書案と査定書を添えて家庭裁判所に出す 印紙800円+切手
5 契約と引き渡し 許可のあと、後見人が売主として契約する 登記費用など

許可の申立てには、売買契約書の案と不動産業者の査定書を添えます。申立書には、処分の必要性を説明する資料も付けます(大阪家庭裁判所)。

注意

後見人には、親族ではなく司法書士や弁護士が選ばれることが多くなっています。2024年に選ばれた後見人のうち、親族は17.1%、親族以外が82.9%でした(最高裁判所)。専門職の後見人には報酬がかかります。東京家庭裁判所の目安は月額2万円で、管理する財産が1,000万円を超えると月額3万〜4万円です(2026年9月時点)。後見は家を売ったあとも親が亡くなるまで続きます。家を売るためだけの制度ではない点を、申し立てる前に家族で共有します。

ポイント

2024年の後見開始などの申立ては41,841件で、動機として「不動産の処分」を挙げたものが36.0%ありました(最高裁判所)。売却のために後見を使う家庭は、3件に1件を超えています。

家族信託と任意後見は、親が元気なうちの準備です

親がまだ契約の内容を理解できる段階なら、後見を使わずに済む準備ができます。どちらも、親に意思能力があるうちにしか結べません。

比べる点 家族信託 任意後見 成年後見(法定後見)
結べる時期 親に意思能力があるうち 親に意思能力があるうち 意思能力を失ったあと
家を売る人 受託者(子など) 任意後見人 成年後見人
売るときの裁判所の許可 不要 不要 居住用なら必要
裁判所の関与 なし 任意後見監督人が付く 家庭裁判所が監督
続く期間 契約で決める 親が亡くなるまで 親が亡くなるまで
主な費用 信託登記の登録免許税、公正証書の手数料 公証人手数料13,000円ほか 申立て費用と後見人報酬

凡例: 費用は2026年9月時点。

家族信託は、親が委託者、子が受託者となり、実家の管理と処分の権限を子に移す契約です。実家の登記は「信託」を原因として子の名義に移り、売るときは受託者である子が売主になります。信託の登記にかかる登録免許税は固定資産税評価額の0.4%で、土地は令和11年3月31日まで0.3%です(国税庁、令和8年4月)。評価額1,000万円の土地なら3万円です。

任意後見は、将来の後見人と権限をあらかじめ公正証書で決めておく契約です。公証人の基本手数料は13,000円、登記嘱託手数料は1,600円、登記印紙代は2,600円です(法務省、2026年9月時点)。親の判断能力が下がったら、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てて始まります。

用語

受託者 信託で財産を預かり、契約で決めた目的のために管理と処分をする人です。家族信託では子がなることが多く、売却代金は親のために使います。受託者が勝手に自分のものにはできません。

売る前に確かめる税金と、売らずに持つ費用

親が売主になる場合、親が住んでいた家なら、居住用財産の3,000万円特別控除を使える場合があります。住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る条件があります(国税庁 No.3302)。成年後見人が売った場合、家庭裁判所への許可申立てにかかった費用は譲渡費用に含められます(国税庁 文書回答事例)。

親が亡くなったあとに相続してから売る場合は、条件が変わります。相続した空き家の3,000万円特別控除は、親が老人ホームに入っていた家では、要介護認定などの条件が付きます。詳しくは空き家の3,000万円特別控除は、どんな家なら使えますかにあります。

売らずに持ち続ける場合も、費用は続きます。固定資産税、火災保険、管理の手間です。管理サービスに頼む場合の月額は空き家の管理サービスは月いくらですかにあります。

このサイトの計算機で、買取価格の目安を出しました。条件は延べ床115㎡の木造、解体費約191万円、家財の処分費15万円です(2026年9月時点)。

市(住宅地の地価) 土地の広さ 土地の値段 買取価格の目安
津市(4万円/㎡) 120㎡ 約480万円 約151万〜219万円
津市(4万円/㎡) 165㎡ 約660万円 約250万〜363万円
久留米市(5.98万円/㎡) 165㎡ 約986万円 約429万〜624万円

後見人の報酬が月額2万円なら、1年で24万円、5年で120万円です。買取価格の目安が数百万円の家なら、後見の費用を払っても売る意味があります。買取価格がほとんど残らない家は、売却を急がず、親が亡くなったあとの相続と合わせて考える選択もあります。名義が親のままの家の扱いは、診断では名義を直せば売れる家の考え方と重なります。

まずやること

  1. 親の判断能力を、かかりつけ医に確かめる。契約の内容を理解できるかどうかが分かれ目
  2. 空き家の診断で、いくらで売れる家かを見る
  3. 親に意思能力があるなら、親自身が売るか、家族信託か任意後見の契約を公証役場で結ぶ
  4. 意思能力がないなら、家庭裁判所に後見開始を申し立てる。申立先は親の住所地の家庭裁判所
  5. 後見人が選ばれたら、査定書と契約書案を添えて、居住用不動産処分の許可を申し立てる

まとめ

  • 認知症で意思能力のない親の家は、子が代わりに売れない。契約は無効になる(民法3条の2)
  • 成年後見人が売るには、家庭裁判所の許可が要る(民法859条の3)。申立ては印紙800円と切手
  • 後見の申立てから開始まで多くは4か月以内。専門職の後見人は月額2万円が報酬の目安
  • 家族信託と任意後見は、親に意思能力があるうちにしか結べない
  • 売るか持つかは、買取価格の目安と後見の費用を並べて決める

よくある質問

Q. 親の委任状があれば、子が代わりに売れますか
親に意思能力があるうちに書いた委任状なら、子が代理人として契約できます。意思能力を失ったあとに書いた委任状は無効です(民法3条の2)。不動産会社や司法書士は、契約や登記の前に本人の意思を確かめます。認知症の診断があり、契約の内容を理解できない状態なら、委任状では進められません。
Q. 後見人が付けば、すぐに実家を売れますか
すぐには売れません。親が住んでいた家を売るには、家庭裁判所の許可が別に要ります(民法859条の3)。施設に入って今は住んでいない家でも、施設を出たときに戻る可能性がある家は居住用として扱われます(大阪家庭裁判所)。許可の申立てには収入印紙800円と郵便切手が要り、売買契約書の案と不動産業者の査定書を添えます。
Q. 家を売り終えたら、後見をやめられますか
やめられません。成年後見は、親の判断能力が回復するか、親が亡くなるまで続きます。家を売る目的が済んでも、後見人は預金や施設の契約の管理を続けます。専門職の後見人には報酬が続き、東京家庭裁判所の目安は月額2万円です。売却だけが目的なら、親に意思能力があるうちに家族信託か任意後見を結ぶ方法と比べます。
Q. 家族信託にすると、実家の名義はどうなりますか
登記は「信託」を原因として受託者である子の名義に移ります。所有権が子に贈与されるのではなく、契約で決めた目的のために子が管理と処分をする形です。売却代金は信託財産として親のために使います。信託の登記にかかる登録免許税は固定資産税評価額の0.4%で、土地は令和11年3月31日まで0.3%です(国税庁、令和8年4月)。
Q. 親が亡くなってから売るほうが、税金は得ですか
場合によります。親が売主なら居住用財産の3,000万円特別控除、相続してから売るなら相続空き家の3,000万円特別控除が候補です。相続空き家の特例は、親が老人ホームに入っていた家では要介護認定などの条件が付き、昭和56年5月31日以前に建てられた家に限られます。どちらも使えない場合の税率と計算は、実家を売ったときの税金の記事にあります。売る時期は、施設の費用の必要性と、税金の条件を並べて決めます。

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建物を残したまま買い取る業者もあります。査定は無料で、金額を見てから断れます。 市ごとの補助金は、市区町村のページに載せています。

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お住まいの市の条件で計算する

建物を残して売った場合の手取りと、解体した場合の自己負担を、市の地価と補助制度から計算します。 所要時間は1分です。名前や連絡先の入力はありません。

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出典

  1. 法務省|成年後見制度Q&A(申立て費用 印紙800円・登記手数料2,600円・鑑定料、任意後見契約の公証人手数料、開始までの期間)
  2. 最高裁判所事務総局家庭局|成年後見関係事件の概況 令和6年1月〜12月(申立件数、動機、後見人の選任、審理期間)
  3. 東京家庭裁判所|成年後見人等の報酬額のめやす(月額2万円、管理財産額による区分)
  4. 大阪家庭裁判所|居住用不動産処分許可申立ての説明(施設入所中の家、費用、必要書類)
  5. 国税庁|文書回答事例(民法859条の3の条文、居住用不動産処分許可申立ての費用の取扱い)
  6. 国税庁|No.3302 マイホームを売ったときの特例(住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日まで)
  7. 国税庁|登録免許税の税額表(令和8年4月。信託の登記 0.4%、土地は令和11年3月31日まで0.3%)
  8. 厚生労働省|認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究(2024年5月公表)
  9. hourei.net|民法 第3条の2(意思能力)、第7条(後見開始の審判)の条文

記事の内容は、2026年9月30日時点の各出典にもとづいています。

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この記事の情報について

一般的な情報としてまとめたものです。控除が使えるかどうかや税額は、物件と世帯の事情で変わります。 最終的な判断は、税理士や司法書士、または管轄の税務署と法務局に確かめてから決めてください。